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2.有理関数、初等超越関数のテイラー展開

 前回多項式関数のテイラー展開について解説しましたが,高校で習っている他の関数のテイラー展開について解説しましょう.
 まず,前回も扱いましたが,無限等比級数の公式について考えてみましょう.
このxを−x2におきかえると,
になります.これらは有理関数(多項式の商の形に表される関数)をテイラー展開した例となっていますが,x のとりえる値に制限がつきます.@については,@の左辺はx=1 のとき分母が0になるので,それほど不思議に思わないかもしれません.しかしながら,Aの左辺は,x がどのような実数値をとっても,分母は0になりません.Aの左辺は x = ±i のとき分母が0になります.(i は虚数単位.)
 実は,実数の範囲で考えている限り納得できる説明はできません.複素解析(関数論ともいう.なお,関数は函数と書かれることが多い.)を少し勉強すると有理関数のテイラー展開についてよく理解できるようになりますが,残念ながらここですぐに説明するのは無理があります.いずれ複素解析の基本的な事柄を高校程度の知識だけを仮定して解説するつもりですが,ここでは結果(命題2.1)のみを記しておきます.
 なお,急ぐ人は有名な高木貞治の「解析概論」の5章を読むとよいでしょう.また,本格的に勉強したい人は,次の本が参考になるでしょう.(もちろん,良書はたくさんあります.)
[1]函数論 吉田洋一 岩波全書 (絶版でしたが,復刊されました.)
[2]複素函数論 辻正次 槇書店 (定理によっては[1]にくらべて証明が分かりやすい場合があるように思われます.ただ,古典的函数論の百科事典みたいな本であるので,事典として使うべき本です.)

【命題2.1】
 f(x)を有理関数とする.ax でないとき,|xa|<|ba|を満たすxに対して,次式が成り立つ.(ここでは説明できませんが,極を特異点に置き換えれば,もっと一般的な関数に対しても成り立ちます.)
 ただし,bは複素数平面上において,aに最も近いf(x)の極である.なお,とくに f(x) が多項式関数のときは有限和となり,当然すべての複素数xに対してこの式が成立する.

(注)
 ここで極の正確な定義を述べるわけにはいかないので,簡易的な説明をしておきます.
f(x)が有理関数のとき,共通の零点をもたないx の多項式
P(x),Q(x)を適当にとって,
  f(x)Q(x)P(x)

の形に表せるが,P(x) の零点をf(x)の極という.なお,P(x)=0 をみたすxP(
x)の零点という.
 残念なことに,高校で複素数平面が教えられなくなったので,複素数平面の説明をしておきます.
 
(複素数平面)
 i を虚数単位(2乗すると−1となる数)とするとき,abi (a ,b は実数)の形で表せる数が複素数でしたが,この数は右図のように,平面上の点として表すと便利です.この平面を複素数平面あるいはガウス平面(C.F.Gauss 1777-1855)といいます.
 
 つぎに,有理関数以外の関数のテイラー展開の例をいくつか示しましょう.(ついでにあとで証明も与えます.)

(注)

 最後の展開式は二項定理の一般化となっています.αが0以上の整数のとき,右辺は有限和となり,高校で習う二項定理となるので,
x に制限はありません.(言うまでもないことですが,αが0または1のときは取るに足らない式になります.)
 その他の実数αに対するx の値の範囲はつぎのようになります.
       αが整数以外の正の実数のとき −1≦ x ≦1, 
       −1<α<0 のとき −1<
x ≦1,
         α≦−1 のとき −1< x <1.
これを完全に証明するのは少し手間がかかるので,ここでは−1< x <1 のとき上記の展開式が成り立つことを示します.(cf.テイラー展開(9))

 次に,これらの展開式が成立することを示しましょう.まず,よく出題される大学入試問題を少し書き直したものを解きます.なお,nは(任意の)正の整数とします.

問題2.2
 f(x)を何回でも微分可能な関数とする.
とおくと,
が成立することを示し,さらに次式が成立することを示せ.
解答←マウスでクリックすると表示されます.

 この結果を用いると,上記の5つの展開式が成立することを容易に示せます.
(できれば,自力で示しましょう.よい演習になります.)

 証明
 ←マウスでクリックすると表示されます.

 なお,問題2.2で示した式より次のもっと一般的な式が成立します.まったく同様に示せますが,部分積分を用いて示すこともできます.この証明についてはテイラー展開(6)をみて下さい
 特に,f(x)がn次の多項式のときf(n+1)(t)=0 となるので,
が成立します.
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